帝都番外編

帰省してからずっと、あまり落ち着かない日々が続いている。それでちょっと何もする気が起きなかった。そもそも同じ屋根の下に何人もの人間と暮らすことが8ヶ月ぶりとかであり、それだけでも1日の過ごし方みたいなものは少しは変わってくるわけだが、そういう生活リズムだけの話ではない気がする。ベッドに敷かれた布団が硬い。これは東京の家の布団はマットレスが厚いせい。髪の毛がまとまらない。これはいつも使っているのと違うシャンプーを使っているせい。家族との話にもやっとした終わり方をすることが多い。これは東京で自分がいつも話す人らと家族との文脈が大きく違うせい。こういったことは今回の帰省で初めて感じたというわけではない。これまでの帰省でもそう感じたことはあったが、だけどそれは懐かしいわ〜という実家への安堵感に落ち着くことが多かった。これまでの自分はこうやって過ごしてきたんだと、どこかではっきりと認識することができていて元の巣に帰ってくるという気持ちが強かった。

 だが今回の帰省はそれが少し違うらしい。そういう諸々の違和感を感じることが心地よさに繋がることなく、微妙な居心地の悪さをどこかで感じてしまっている。町中を歩いてみてもそうで、かつての自分と関係のあった建物とかを見ても、それと関わりを持っていた頃の自分をあまり思い出すことができない。現在の自分を過去から位置付けることなく、心のどこかで、過去を過去として受け入れきってしまっている自分がいる。

 それくらい今回の帰省までの8ヶ月は、時間をそれ自体以上に引き伸ばしてしまったのかもしれない、と思った。過去が現在から遠ざかっていく。予備校に通っていた頃、現代文の教師が言っていたことを思い出す。誰もが上京したばかりの頃は「実家に帰る」というのに、いつしか「東京に帰る」と言い出す。その当時は言っている意味が分からなかったし、今でも東京に帰るとは中々言わないが、それでもその言葉の機微をちびりと味わった気持ちでいる。

 実質2週間程度の帰省の半分が終わったところである。そんなことをそぞろに考えながらもあと3日とかで東京に戻るとなると急に寂しくなるのがオチなのは正直分かっている。みんなに愛されているのもすごく分かっている。それでもなんだか今回の帰省は色んなものへの距離がうまく保てない。ちょっと寂しい。

 

真夜中に書くならもっと甘いことを書きたい。恋とか、チョコレートの話とか。